商品の価格やプランを比較していると、「なぜか真ん中のプランを選んでしまった」という経験をした方もいるでしょう。これは単なる偶然ではなく、企業が活用する価格戦略の一つである「おとり価格」が影響している可能性があります。
本記事では、おとり価格の仕組みや心理的効果、活用例、メリットとデメリット、法規制のポイント、導入時の注意点について詳しく解説します。
目次

おとり価格設定とは
おとり価格設定(デコイプライシング)とは、消費者に特定の商品やプランを選んでもらいやすくするために、比較対象として相対的に魅力が劣る「おとり」(デコイ) の選択肢を用いる価格戦略です。
一般的には、販売したい商品と価格差が小さく、内容がやや見劣りする選択肢を並べることで、対象商品のお得感や価値を強調します。
例えば、3つの料金プランを提示した際に、最も選んでほしいプランが割安に見えるよう価格や内容を設計するケースが代表例です。このとき、比較の基準として置かれる選択肢が「おとり商品」として機能します。
この手法はECサイトやサブスクリプションサービス、飲食店のメニューなどさまざまな業界で活用されています。
ただし、消費者を誤認させるような表示は避け、景品表示法などの日本の関連法規にも配慮しながら運用することが重要です。

おとり価格戦略の仕組み
おとり商品の配置
おとり商品は、販売したい商品の近くに配置することが重要です。
例えば、価格差が小さいにもかかわらず内容に大きな差がある商品を並べることで、販売したい商品の割安感や価値を強調できます。消費者が比較しやすい環境を作ることで、特定の商品やプランを選びやすくなります。
おとり商品の役割
おとり商品の役割は、選ばれることそのものではなく、販売したい商品の価値を際立たせることにあります。
おとり商品があることで、消費者は価格や機能、サービス内容を比較しやすくなり、結果として本命商品をより魅力的に感じやすくなります。
消費者が商品を選択する流れ
消費者はまず複数の商品やプランを比較し、それぞれの価格や内容を確認します。その後、おとり商品との比較を通じて、本命商品のコストパフォーマンスや価値をより明確に捉えられるようになります。最終的には「最もバランスが良い」と判断し、その商品を選択する可能性が高まります。
おとり価格設定と景品表示法の関係
景品表示法に抵触する可能性があるケース
- 実際には販売する意思のない商品を比較対象として掲載する
- 実際よりも大幅にお得であるかのような価格表示を行う
- 消費者が商品内容や価格について誤解するような比較表や説明を掲載する
このような表示は、消費者が商品やサービスの価値を正しく理解できなくなるおそれがあります。景品表示法違反に該当する可能性もあるため、価格や比較内容は事実に基づいて分かりやすく表示することが重要です。
問題になりにくいケース
- 実際に購入できる複数の商品やプランを比較している
- 商品の価格や機能、サービス内容を正確に表示している
- おとり商品にも一定の価値があり、消費者が自由に選択できる
このようなケースでは、消費者が十分な情報をもとに商品やサービスを比較したうえで選択できるため、法的な問題が生じる可能性は低いと考えられます。重要なのは、価格や内容を正確に伝え、消費者の自主的な判断を妨げない設計にすることです。

おとり価格設定に影響する消費者心理
認知バイアス
認知バイアスとは、人が物事を判断する際に無意識のうちに生じる思考の偏りのことです。
消費者は商品の価値を客観的に評価しているつもりでも、実際には価格や周囲の選択肢の影響を受けています。おとり価格戦略では、この認知バイアスを活用し、比較対象となる商品を配置することで、本命の商品をより魅力的に感じやすい状況をつくります。
妥協効果
妥協効果とは、複数の選択肢が提示された際に、極端な選択を避けて中間の選択肢を選びやすくなる心理現象です。
例えば、低価格・中価格・高価格の3つの商品がある場合、多くの消費者は価格と品質のバランスが取れた中価格帯の商品を選ぶ傾向があります。おとり価格戦略では、この心理を利用し、販売したい商品を中間の選択肢として選ばれやすくなるように設計されています。
引力効果
引力効果(デコイ効果)とは、ある商品と比較して明らかに魅力が劣る選択肢を追加することで、特定の商品がより魅力的に見えるようになる心理現象です。
例えば、価格差がほとんどないにもかかわらず機能が大きな差がある商品を並べると、条件の良い商品が相対的に割安に感じられます。おとり商品は、この引力効果を生み出すよう設計されており、本命商品の価値や魅力を際立たせる役割を果たします。

おとり価格が活用される場面
サブスクリプションプラン
サブスクリプションプランでは、複数の料金プランを比較して選ぶケースが多いため、おとり価格戦略が活用されています。
例えば、「ベーシックプラン」「スタンダードプラン」「プレミアムプラン」の3つを用意し、販売したいスタンダードプランの近くに、価格差が小さいものの機能が少ないプランを配置するケースがあります。消費者は各プランを比較する中で、スタンダードプランのコストパフォーマンスが高いと感じやすくなります。
動画配信サービスや音楽配信サービス、SaaSなどでも広く導入されています。
商品のセット販売
商品のセット販売では、単品商品との価格差を比較しやすいため、 おとり価格戦略が採用されています。
例えば、単品商品と複数の商品を組み合わせたセット商品を用意し、セット商品のお得感が伝わるよう価格を設計します。「単品1,000円」「2点セット1,800円」「3点セット2,000円」のように設定すると、多くの消費者は少しの追加料金でより多くの商品を購入できる3点セットに魅力を感じやすくなります。
ECサイトのまとめ買いキャンペーンや飲食店のセットメニューなどでもよく見られる手法です。顧客単価の向上や関連商品の販売促進につながる点が特徴です。
容量や数量による価格設定
容量や数量別の価格設定では、サイズや個数の異なる商品を比較して選ぶことが多いため、おとり価格戦略が活用されています。
例えば、飲料や食品で「Sサイズ300円」「Mサイズ450円」「Lサイズ500円」といった価格設定を行う場合、MサイズとLサイズの価格差を小さくすることで、より容量の多いLサイズがお得に見えるようになります。同様に、ECサイトでも「1個」「3個セット」「5個セット」を用意し、まとめ買いの方が割安になるよう設計するケースがあります。
消費者は単価やコストパフォーマンスを比較しながら商品を選ぶため、平均購入単価の向上が期待できます。
飲食店やECサイトのメニュー設計
飲食店やECサイトのメニュー設計では、価格や内容を比較しながら選ぶ場面が多く、おとり価格戦略が広く活用されています。
例えば、飲食店で「並盛」「大盛」「特盛」の3つの選択肢を用意し、大盛と特盛の価格差を小さくすることで、特盛がお得に感じられるようにするケースがあります。ECサイトでも、複数の商品プランやオプションを並べて表示し、特定の商品が最もコストパフォーマンスに優れているように見せることがあります。このような価格設計は、消費者が比較しやすくなるだけでなく、事業者にとっては利益率の高い商品やサービスへの誘導につながる点が特徴です。
おとり価格の企業事例
セブン-イレブン
セブン-イレブンでは、同じカテゴリーの商品を「松(高価格帯)」「竹(中価格帯)」「梅(低価格帯)」に分類する価格戦略を展開しています。
例えば、弁当や惣菜などで複数の価格帯を用意することで、消費者が比較しながら商品を選べるようにしています。実際には低価格帯の商品だけに需要が集中するわけではなく、高価格帯の商品も売上や利益に大きく貢献しているとされています。
このような「松竹梅」の構成は、妥協効果を活用した価格設定の代表例であり、比較によって中価格帯や高価格帯の商品が選ばれやすくする点で、おとり価格戦略とも共通する特徴があります。
Netflix
Netflix(ネットフリックス)では、「広告つきスタンダード」「スタンダード」「プレミアム」といった複数の料金プランを提供し、画質や同時視聴数などに違いを設けています。
ユーザーはそれらを比較しながら選ぶため、価格や機能の差によって特定のプランのコストパフォーマンスが相対的に高く感じられるようになります。
このように、選択肢を横並びで提示し比較を促すことで、中間または上位プランが選ばれやすくなります。これは妥協効果を活用した価格設計の一例であり、おとり価格戦略と類似した構造を持っています。
おとり価格戦略を実行するための5つのステップ
- 対象となる商品やサービスを選定する:まずは販売を強化したい商品やサービスを明確にします。どの商品へ誘導したいのかを決めることで、おとり価格戦略の設計がしやすくなります。
- 競合他社の価格設定を調査する:市場や競合他社の価格帯を把握し、自社商品の価格がどのように見られるかを分析します。適切な価格差を設計するために欠かせない工程です。
- おとり商品を設計する:消費者が比較した際に、販売したい商品が魅力的に見えるよう、おとり商品の価格や機能、サービス内容を設定します。
- 比較軸を明確にする:価格だけでなく、機能や容量、サポート内容などの違いを分かりやすく提示することで、消費者が比較しやすくなります。
- 効果測定と改善を行う:導入後はコンバージョン率や平均購入単価などの指標を分析し、継続的に改善を行います。データをもとに調整することで、より高い効果が期待できます。
おとり価格のメリット
- より利益率の高い商品へ誘導しやすい:おとり商品との比較により、本命商品の割安感が強調されます。その結果、利益率の高い商品が選ばれやすくなり、収益性の向上にもつながります。
- 顧客の意思決定をサポートできる:価格や機能の違いが明確になることで、消費者は自分に合った選択肢を見つけやすくなります。結果として、意思決定がスムーズになり、顧客満足度の向上につながる可能性があります。
- 平均購入単価の向上が期待できる:容量違いの商品やセット商品を用意することで、消費者は価格以上のお得感を感じやすくなります。その結果、上位プランや高価格帯の商品が選ばれやすくなり、平均購入単価の向上が期待できます。
おとり価格のデメリット
- 消費者に不信感を与える可能性がある:明らかに割高で実質的に選ばれにくいプランを配置すると、消費者から特定の商品へ誘導するための仕掛けだと受け取られることがあります。その結果、企業への信頼低下やブランドイメージの悪化につながる恐れがあります。
- 設計を誤ると期待した効果が得られない:おとり商品と本命商品の価格差や機能差が適切でない場合、消費者に価値の違いが伝わらず、狙った商品への誘導に失敗することがあります。結果として、想定した購買行動につながらない可能性があります。
- 法規制やブランドイメージへの配慮が必要:景品表示法では、実際よりも有利であると誤認させる表示や、消費者の判断を誤らせる表現が規制されています。法的な問題がなくても、不誠実な価格設定と受け取られればブランド価値の低下につながる可能性があります。
まとめ
おとり価格設定は、消費者の比較行動や心理を活用し、特定の商品やサービスの魅力を高める価格戦略です。
サブスクリプションプランやセット販売、容量違いの商品など、さまざまな場面で活用されており、利益率の高い商品への誘導や平均購入単価の向上が期待できます。一方で、設計を誤ると消費者の不信感を招いたり、意図した効果が得られなかったりする可能性もあります。また、日本では景品表示法などの法規制への配慮も欠かせません。
おとり価格設定を導入する際は、消費者にとって分かりやすく公平な価格設計を行い、継続的に効果検証と改善を重ねることが成功のポイントです。
おとり価格のよくある質問
おとり価格設定は違法?
おとり価格設定そのものは違法ではありません。ただし、消費者に誤解を与える価格表示や、実際には販売する意思のない商品を比較対象として掲載する行為は、景品表示法に抵触する可能性があります。
おとり価格設定はどのような業界で活用されている?
サブスクリプションサービス、ECサイト、飲食店、小売店など幅広い業界で活用されています。複数の料金プランやサイズ展開がある商品やサービスとの相性が良い手法です。
おとり価格設定を導入する際の注意点は?
価格差や機能差の設定が不自然だと、消費者に不信感を与える可能性があります。そのため、比較の根拠が明確で、納得感のある価格設計にすることが重要です。




